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エントリーNO.65
岩波文庫を1ページ読書

           解説文(「岩波文庫解説総目録」より引用)
志賀直哉は他人の文章を褒める時「目に見えるようだ」と言ったそうだ。 そして、彼の短篇や随筆ほど「目に見える」ように書かれた作品はあるまい。 作者自選の短篇集。「小僧の神様」「清兵衛と瓢箪」「城の崎にて」など代表的短篇が収められている。

発行
 岩波文庫 2008年11月14日 第10刷
著者名
 志賀 直哉 (しが なおや)
タイトル
 小僧の神様 (こぞうのかみさま)他十篇
                    上記著作より、本文書き出し1ページを引用

     小僧の神様
  仙吉(せんきち) は神田のある 秤屋(はかりや) の店に奉公している。
 それは秋らしい柔らかな澄んだ () ざしが、紺の 大分(だいぶん) はげ落ちた 暖簾(のれん) の下から静かに店先に差し込んでいる時だった。 店には一人の客もない。 帳場格子(ちょうばごうし) の中に坐って退屈そうに 巻煙草(まきたばこ) をふかしていた番頭が、 火鉢の (そば) で新聞を読んでいる若い番頭にこんな風に話しかけた。
 「おい、 (こう) さん。 そろそろお前の好きな (まぐろ) 脂身(あぶらみ) が食べられる頃だネ」
 「ええ」
 「今夜あたりどうだね。お店をしまってから出かけるかネ」
 「結構ですね」
 「 外濠(そとぼり) に乗って行けば十五分だ」
 「そうです」
 「あの (うち) のを食つちゃァ、この辺のは食えないからネ」
 「全くですよ」

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