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エントリーNO.64
岩波文庫を1ページ読書

           解説文(「岩波文庫解説総目録」より引用)
数多い武者小路の作品のなかでもとりわけこの作品が若い人びとに広く親しまれてきたのは、 青春時代のあらゆる魂の問題が恋愛と友情という切り離すことのできぬテーマをめぐって扱われているからだ。 ここに充ちあふれている自己否定の明るさとおおらかさは、 いつまでも暖く力強いはげましでありつづけるだろう。
 解説=河盛好蔵

発行
 岩波文庫 2007年2月5日 第5刷
著者名
 武者小路 実篤 (むしゃのこうじ さねあつ)
タイトル
 友情 (ゆうじょう)
                    上記著作より、本文書き出し1ページを引用

  上 篇
    一
  野島(のじま) が初めて 杉子(すぎこ) に会ったのは帝劇の二階の正面の廊下だった。 野島は脚本家をもって (ひそ) かに任じてはいたが、 芝居を見る事は (まれ) だった。 この日も彼は友人に誘われなければ行かなかった。誘われても行かなかったかもしれない。 その日は 村岡(むらおか) の芝居が () られるので、彼はそれを読んだ時から閉口していたから。 しかし友達の 仲田(なかだ) (すす) められると、ふと行く気になった。 それは杉子も 一緒(いっしょ) に行くと聞いたので。
   彼は杉子に () ったことはなかった。しかし写真で一度見たことがあった。 それは友達三、四人とうつした十二、三の時の写真だったが、彼はその写真を何気なく何度も何度も見ないわけにゆかなかった。 皆の内で杉子は図ぬけて美しいばかりではなく、清い感じがしていた。彼はその写真を机の前に飾っておいたら、きっといい脚本がかきたくなるだろうと思った。 しかし彼は仲田に写真をくれとはいえなかった。

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