[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。

表紙一覧へ        次のエントリーへ

エントリーNO.62
岩波文庫を1ページ読書

           解説文(「岩波文庫解説総目録」より引用)
信州小諸で教師をしていた藤村は、千曲川にのぞむこの地の生活や自然を詩情豊かな筆でスケッチした。 この小品集は、その中から作者自身が若い人々のために選んで、 明治末から大正初期へかけて雑誌「中学世界」に連載したもの。 ここにも自然主義作家藤村の真摯な人生観や文学探求への情熱がにじみ出ている。 明治45年刊。

発行
 岩波文庫 2008年2月5日 第6刷
著者名
 島崎 藤村 (しまざき とうそん)
タイトル
  千曲川(ちくまがわ) のスケッチ
                    上記著作より、本文書き出し1ページを引用

  そ の 一
  学生の家
 地久節には、私は、二,三の同僚と一緒に、 御牧(みまき) (はら) へ山遊びに出掛けた。 松林の間なぞを猟師のように歩いて、小松の多い岡の上では大分 (わらび) を採った。 それから 鴇窪(ときくぼ) という村へ引返して、田舎の中の田舎とでも言うべきところで半日を送った。
 私は今、 小諸(こもろ) 城趾(しろあと) にちかいところの学校で君と同年位な学生を教えておる。 君はこういう山の上への春が 奈何(いか) に待たれて、そして奈何に短いものであると思う。 四月の二十日頃にならなければ、花が咲かない。梅も桜も (すもも) (ほとんど) んど同時に開く。 城趾の 懐古園(かいこえん) には二十五日に祭があるが、その頃が花の盛りだ。 すると、毎年きまりのように風雨がやって来て、 一時(いちどき) にすべての花を (さら) って行ってしまう。 私たちの教室は八重桜の樹で 囲繞(いにょう) されていて、 三週間ばかり前には、丁度花束のように密集したやつが教室の窓に近く咲き乱れた。 休みの時間に出て見ると、濃い花の影が私たちの顔にまで映った。学生たちはその下を遊び廻って戯れた。 殊に小学校から来たての若い生徒と来たら、あっちの樹に隠れたり、こっちの枝につかまったり、まるで小鳥のように。

表紙一覧へ        次のエントリーへ


copyrighit (c) 2011 岩波文庫を1ページ読書