エントリーNO.546
岩波文庫を1ページ読書
山椒魚戦争

解説文(「岩波文庫解説総目録」或いは、表紙より引用)

赤道直下のタナ・マサ島の「魔の入江」には二本足で子供のような手をもった真黒な怪物がたくさん棲んでいた。 無気味な姿に似ずおとなしい性質で、やがて人間の指図のままにさまざまな労働を肩替りしはじめるが・・・。 この作品を通じてチャペック(1890−1938)は人類の愚行を鋭くつき、科学技術の発達が人類に何をもたらすか、と問いかける。 現代SFの古典的傑作。

発行
岩波文庫 1996年7月16日 第7刷
著者名
カレル・チャペック  
タイトル
山椒魚戦争 (さんしょううおせんそう)  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

  第一部  アンドリアス・ショイツツェリ
    1 ヴァン・トフ船長の不思議なふるまい
 タナ・マサという小島を地図で探せば、スマトラからすこし西に当たる赤道のちょうどまうえのところに見つかるだろう。 だが、カンドン・バンドン号のデッキの上で船長のJ・ヴァン・トフに、いま錨を下ろしたばかりのタナ・マサってどんな島かときけば、 船長はしばらくさんざん悪口を聞かせてから、言うことだろう。
 「こんなひどい島ったら、スンダ列島中にもまずないね。なにしろタナ・バラ島よりももっとつまらないと来ているから、この島くらい三文の値打ちもない島は、 ピニかバニャクぐらいのものだろう。それに、この島に住んでいるたった一人の人間が----もちろん、あの汚ならしいバタク人どもは別としてね----飲んだくれの商社の代理人と来ているからたまらない。 そいつはクブ人とポルトガル人の合いの子でね、クブ人と白人をぜんぶ合わせたっていないほどのひどいインチキ野郎で、神をおそれぬブタ野郎なんだ。 この世界に (ばち) あたりのものが何かあるとすれば、さしずめこの罰あたりのタナ・マサ島の罰あたりの生活だろうよ」
 そこで、そんな罰あたりの島で三日も暮らすみたいに、罰あたりの錨を下ろしたのはいったいどういうわけかと聞けば、船長は痛いところを突かれたみたいに鼻を鳴らして、こんなことを不平そうに言うにちがいない。


copyrighit (c) 2011-2012  岩波文庫を1ページ読書  リンクフリー