エントリーNO.542
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シスター・キャリー

解説文(「岩波文庫解説総目録」或いは、表紙より引用)

アメリカ中西部の田舎から姉夫婦をたよってシカゴへやってきたキャリーは、生活に慣れるに従い、次第に都会の華やかな物質文明の魅力にとりつかれてゆく。 そのあげく妻子ある酒場の支配人ハーストウッドと親しくなって、ニューヨークへ駆落ちする。 都市小説の先駆となったドライサー(1871-1945)の代表作。(全2冊)

発行
岩波文庫 1997年6月16日 第1刷
著者名
ドライサー  
タイトル
シスター・キャリー  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

    第一章  磁石は引きつける
          ----翻弄される浮き草
 キャロライン・ミーバーは、シカゴ行きの午後の列車に乗り込んだ。そのとき手に持っていたものといえば、小さなトランクが一つ、 人造ワニ革製の安物の手提げ鞄、紙袋に入れた小さな弁当、黄色い革製のがま口、そのなかに入れた切符、ヴァン・ビューレン通りに住む姉の住所が書いてある紙片、 それにおかねが四ドル、それだけだった。時は一八八九年八月のこと。年齢は十八歳。頭はよいが、内気で、無知と若さゆえの幻想をいっぱい抱えていた。 別離の悲しみに多少は心がふさいでいても、恵まれた境遇を失おうとしているからでないことは確かだった。 母から別れの接吻をもらったときには、涙が (あふ) れ出る。 父が日雇いで働いている製粉工場のそばを列車がガタゴト通過したときには、 (のど) にこみ上げるものを感じる。 つぎつぎにあらわれては消えていく見慣れた村はずれの、緑あふれる景色を眺めながら、感傷的なため息をもらす。 こうして、少女の頃の思い出と家庭とに、細ぼそとではあれつなぎとめてくれていた (きずな) は断ち切られ、 二度と元に戻れなくなった。


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