エントリーNO.541
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小説の認識

解説文(「岩波文庫解説総目録」或いは、表紙より引用)

『小説の方法』の続編。『方法』で組織的に展開した考察、分析をよりいっそう個別に深化、発展させた11篇の評論から成る。 「組織と人間」など社会と人間の関係への新たな視座も生まれ、読みごたえのある刺激的な評論集となった。
(解説=曾根博義)

発行
岩波文庫 2006年8月17日 第1刷
著者名
伊藤 整 (いとう せい)  
タイトル
小説の認識 (しょうせつのにんしき)  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

    芸による認識
 芸術とは、生命をそれの働きという実質でとらえるために人間が作り出した認識の手段ではないだろうか。 この (かんがえ) は、色々な疑いとためらいを伴って明滅しながら、 長いこと私の中に続いている。それは象徴派の詩の理論の中に、青春時代におぼろげに私が感じたものであり、分析と写実とに枝をひろげたはぼ同じ時期の散文のリアリズムをその後私が学んだ時に、一度は否定しかけた考であった。 そして、そのリアリズムが疑われ、新しい心理学や民俗学や社会学の発生によって現実そのものが解体され、二十世紀の芸術が新しい理論の上に組み立てられなければならなくなった時、 再び私の内部に (よみがえ) ったものであった。 しかし象徴派の詩の方法が確信を持たれたときに、実証的リアリズムの土台は失われていたのだと私は気がついていなければならなかったのであろう。 それを世紀末とかデカダンという風に意識しなければならなかったところに、ヨーロッパの実証的な思想の危なさがあった、と気がつかなければならなかったのだ。


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