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エントリーNO.537
岩波文庫を1ページ読書
思い出す事など

解説文(「岩波文庫解説総目録」或いは、表紙より引用)

明治43年の盛夏、漱石は保養さきの修善寺温泉で胃潰瘍の悪化から「大きな動物の肝の如き」血塊を吐いて人事不省ににおちいった。 辛くも生還しえた悦びをかみしめつつこの大患前後の体験と思索を記録したのが表題作である。 他に二葉亭四迷・正岡子規との交友記など7篇。どの一篇も読む者の胸にせつせつと迫ってくる。
解説=竹盛天雄 注=三山居士

発行
岩波文庫 1986年2月17日 第1刷
著者名
夏目 漱石 (なつめ そうせき)  
タイトル
思い出す事など (おもいだすことなど) 他7篇  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

  思い出すことなど
    一
  (ようや) くの事でまた病院まで帰って来た。思い出すと 此処(ここ) で暑い朝夕を送ったのも 最早(もう) 三ヵ月の昔になる。その頃は二階の (ひさし) から六 (しゃく) (あま) るほどの長い 葭簀(よしず) 日除(ひよけ) に差し出して、 (ほて) りの強い 縁側(えんがわ) を幾分か暗くしてあった。 その縁側に 是公(ぜこう) から (もら) った (かえで) 盆栽(ぼんさい) と、 時々人の見舞いに持って来てくれる草花などを置いて、退屈も (しの) ぎ暑さも (まぎ) らしていた。 (むこう) に見える高い宿屋の 物干(ものほし) 真裸(まっぱだか) の男が二人出て、 日盛(ひざかり) を事ともせず、 欄干(らんかん) の上を危なく渡ったり、または細長い 横木(よこぎ) の上にわざと 仰向(あおむけ) に寝たりして、 巫山戯(ふざけ) (まわ) る様子を見て自分も 何時(いつ) か一度はもう(ぺん) あんな (たくま) しい体格になって見たいと (うらや) んだ事もあった。 今は (すべ) てが過去に化してしまった。


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