エントリーNO.532
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イタリア古寺巡礼

解説文(「岩波文庫解説総目録」或いは、表紙より引用)

一九二七(昭和二)年末から三ヵ月余にわたるイタリア旅行で出会った絵画・彫刻・建築の印象をみずみずしい筆致で書きとめたイタリア美術紀行。 後に『風土』で展開される風土論の萌芽が随所にみられる点も大変興味深い。挿絵多数。
(解説=高階秀爾)

発行
岩波文庫 1991年11月7日 第3刷
著者名
和辻 哲郎 (わつじ てつろう)  
タイトル
イタリア古寺巡礼 (イタリアこじじゅんれい)  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

   1 出発
 一九二七年十二月十九日、パリにて。
 H〔父方の従兄弟、和辻春樹〕はロンドンから帰って来た。別にさわりもなかった。しかし医者に早く日本へ帰って療養するようにとすすめるので、予定よりも早く一月九日ナポリ発の鹿島丸で帰ることにした。 そんなわけで南フランスからイタリアというふうに暖かい地方だけしか見物できない。 だいぶがっかりしている様子で気の毒だ。それに病後の一人旅は心細そうだから、ローマまでついて行くことにする。
 一昨土曜日にはHを案内してルーヴルを一回りし、それからトーマス・クックへ行ってローマまでの切符を買った。 フランスの国内は二等、イタリアへはいってからは一等ということにして七百四、五十フラン、六十円余りに当たる。 日本の国内で少し遠いところへ行くような感じである。
 クックを出てからエトワールの附近の 常盤(ときわ) という日本料理屋へ行って夕食をしたが、 もう帰ろうとしていた時に、京都の浜田〔耕作〕さんが田中豊蔵や小島 祐馬(すけま) 君といっしょにやって来られたのに逢い、 またひき返して話し込んだ。


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