エントリーNO.529
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ボヴァリー夫人

解説文(「岩波文庫解説総目録」或いは、表紙より引用)

甘い感傷と夢のような人生にあこがれて医師シャルルの妻となったものの、たちまち現実の結婚生活の単調さ、夫の凡庸さに幻滅を味わわせれてたエンマ。 満たされぬ感情に身をやかれ、彼女はひたすら夢を追って不倫の恋にしずみこんでゆく。 フランス近代小説の祖フローベール(1821-80)が写実主義文学を確立した名作。(全2冊)

発行
岩波文庫 1995年6月5日 第62刷
著者名
フローベール  
タイトル
ボヴァリー夫人 (ボヴァリーふじん) 全2冊  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

    第一部  
     一  
 私たちが自習室で勉強していると、そこへ校長が、平服を着た「新人」と、大きな机をかついだ小使を連れてはいってきた。 いねむりしていた連中は眼をさました。そして誰も彼もが勉強中に不意を打たれた (てい) で起立した。
 校長は私たちに着席の 合図(あいず) をした。それから助教の方に向き直って、
「ロジェ君」と小声になり、「この生徒は、二学年へ編入じゃ、よろしくたのむ。もし学力操行ともによければ、年相応の「上級」へ上げることにしよう」
 扉のかげの隅にいるのでよくは見えぬが、この「新人」は十五くらいの田舎者で、身丈は私たちの誰よりも高かった。村の聖歌手のように髪をお 河童(かっぱ) にし、かしこまり、すっかりてれていた。 肩幅は広くないが、黒ボタンのついた緑の 羅紗(らしゃ) のチョッキは、袖つけがいかにも窮屈そうで、いつもむき出しているらしい赤い手首が、袖飾りの切込みの間からのぞいていた。 ズボン吊りできつく吊り上げた淡黄色のズボンから、青靴下をはいた脚が覗いている。 みがきの悪い、びょう打ちの頑丈な靴をはいていた。


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