エントリーNO.525
岩波文庫を1ページ読書
木綿以前の事

解説文(「岩波文庫解説総目録」或いは、表紙より引用)

無数無名の人びとは、その昔、いかなる日常生活を営んでいたか。 柳田は愛読書「俳諧七部集」の中に庶民の「小さな人生」をひとつひとつ発見してゆく。 衣服・食物・生活器具など女性の生き方と関わりの深いテーマをめぐる19の佳篇のいずれにも、 社会を賢くするのが学問の目的だとする著者の主張と念願が息づいている。
解説=益田勝実

発行
岩波文庫 1983年11月10日 第5刷
著者名
柳田 国男 (やなぎだ くにお)  
タイトル
木綿以前の事 (もめんいぜんのこと)  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

 木綿以前の事
   一
 『七部集』の 附合(つけあい) の中には、 木綿(もめん) の 風情(ふぜい) を句にしたものが三ヶ処ある。 それから木綿とは言ってないが、次の『 炭俵(すみだわら) 』の一節もやはりそれだろうと私は思っている。
     分(ぶん) にならるる 嫁(よめ) の 仕合(しあわせ)          利牛(りぎゅう)  
   はんなりと 細工(さいく) に染まる 紅(べに) うこん    桃隣(とうりん)
     鑓(やり) 持ちばかり戻る 夕月(ゆうづき)          野坡(やば)
 まことに艶麗な 句柄(くがら) である。近いうちに分家をするはずの二番 息子(むすこ) の 処(ところ) へ、 初々(ういうい) しい花嫁さんが来た。 紅をぼかしたうこん染めの、 袷(あわせ) か何かをきょうは着ているというので、もう日数も 経(た) っているらしいから、 これは 不断着(ふだんぎ) の新しい木綿着物であろう。 次の 附句(つけく) は是を例の俳諧に変化させて、晴れた或る日の 入日(いりひ) の頃に、 月も出ていて空がまだ赤く、向こうから来る 鑓(やり) と鑓持ちとが、 その空を背景にくっきりと浮き出したような場面を描いて、「細工に染まる紅うこん」を受けてみたのである。
(サイト管理人 注 利牛のうたの「嫁」の旧字見当たらず)


copyrighit (c) 2011-2012  岩波文庫を1ページ読書  リンクフリー