エントリーNO.519
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ベートーヴェンの生涯

解説文(「岩波文庫解説総目録」或いは、表紙より引用)

少年時代からベートーヴェンの音楽を生活の友とし、その生き方を自らの生の戦いの中で支えとしてきたロマン・ロラン(1866-1944)によるベートーヴェン賛歌。 二十世紀の初頭にあって、来るべき大戦の予感の中で自らの理想精神が抑圧されているのを感じていた世代にとってもまた、彼の音楽は開放の言葉であった。

発行
岩波文庫 1983年12月20日 第38刷
著者名
ロマン・ロラン  
タイトル
ベートーヴェンの生涯 (ベートーヴェンのしょうがい)  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

 彼は広い肩幅を持ち力士のような骨組みであったが、背が低くてずんぐりしていた。 顔は大きくて赤かった。ただし晩年に近づいてからは顔の色が病人じみた黄色味を帯びて来た。 とりわけ冬、田園を歩くことが少なく、家に閉じ籠もって暮らさなければならなかった時にはなおさらそうであった。 顔はがっしりと強く盛り上がっていた。はなはだ黒い、異常に厚い髪の毛----櫛の歯がとうてい梳けなかったかのように見える髪の毛は、 思いのままにあらゆる方向へ逆立って、まるで「メヂューズの頭の蛇ども」のようであった。 眼光が強い熱を持っていて、彼に逢った人は誰しもその力を感銘させられた。だがその瞳の色については多くの人々が思い違いをしたものである。 陰鬱な悲劇的な相貌の中からほの暗い輝きを帯びてその瞳がきらめくときには瞳の色は黒だという印象を人々に与えがちであったのだが実はそれは青みを帯びた灰色なのであった。 その眼は小さくて深く沈んでいたが、情熱や怒りに憑かれると突然大きく見ひらいて、 内部のあらゆる考えを、みごとな誠実さをもって映し示すのであった。 また、ときどきは、一種憂鬱な眼つきをもって天の方へ向けられた。鼻は短くて角張っていて、大きかった。 そして獅子の鼻先に似ていた。口は精緻にできていた。しかし下唇が上のよりもやや突き出ている気味だった。 (あご) こそは、 胡桃(くるみ) をも噛み砕きそうな強い顎であった。
(サイト管理人 注 2行目 赤の旧字見当たらず。)


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