エントリーNO.514
岩波文庫を1ページ読書

解説文(「岩波文庫解説総目録」或いは、表紙より引用)

ある夜、青年ハインリヒの夢にあらわれた青い花。その花弁の中に愛らしい少女の顔をかいま見た時から、 彼はやみがたい憧れにとらえられて旅に出る。それは彼が詩人としての自己にめざめてゆく内面の旅でもあった。 無限なるものへの憧憬を"青に花"に託して描いたドイツ・ロマン派の詩人ノヴァーリス(1772-1801)の小説。

発行
岩波文庫 2003年11月15日 第11刷
著者名
ノヴァーリス  
タイトル
青い花 (あおいはな)  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

   第一部  期待
    第一章
 両親はもう眠りについていた。壁の時計がものうげに時をきざみ、がたがたなる窓の外で、風がうなり声をあげていた。 月の光が射して部屋が明るくなったかとみると、また暗くなった。青年は眠れぬまま寝台の上を 輾転(てんてん) として、あの旅の人のこと、その口から語られたあれこれを思い出していた。
 「ぼくの心をこうも落ち着かなくさせているのは、あの話にあった宝物のせいではない」と青年は独り言を言った。 「宝物への執着心なんて、およそぼくには無縁なことだ。だがあの青い花だけは、何としても見たい。ずっとあの花が気にかかって、他のことは何ひとつ考えられない。 こんな気持になることは今まで一度もなかったのに。まるで今夢から覚めたところとでもいうか、 眠っているうちに別の世界へ連れていかれたかのようだ。ふつうの暮しをしていて、花なんかに気をとられる人はいないだろう。それも、たった一輪の花に奇妙な情熱を傾けるなんて、 聞いたためしがない。 あの旅の人は、いったいどこから来たのだろう。


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