エントリーNO.509
岩波文庫を1ページ読書
一外交官の見た明治維新

解説文(「岩波文庫解説総目録」或いは、表紙より引用)

風雲急をつげる幕末・維新の政情の中で、生麦事件等の血腥い事件や条約勅許問題等の困難な紛争を身をもって体験したイギリスの青年外交官アーネスト・サトウ(1843-1929)の回想録。 二度まで実戦に参加して砲煙弾雨の中をくぐり、また攘夷の白刃にねらわれて危うく難をまぬがれたサトウの体験記は、 歴史の地膚をじかに感じさせる維新史の貴重な史料。

発行
岩波文庫 1984年5月20日 第29刷
著者名
アーネスト・サトウ  
タイトル
一外交官の見た明治維新(いちがいこうかんのみためいじいしん)全2冊  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

    第一章  江戸在勤の通訳生を拝命(一八六一年 〔訳注 文久元年〕

 ほんの思いがけないことから、私は日本に心をひかれはじめたのである。私が十八歳のとき、 兄がミューディ図書館からローレンス・オリファントの書いた『エルギン卿のシナ、日本への使節記』というおもしろい本を借りてきた。 やがて私のところへも回覧されたが、 絵草紙(えぞうし) ふうのこの本が私の空想をかりたてたのである。
 その国では、空がいつも青く、太陽が絶え間なくかがやいている。岩石の 築山(つきやま) のある小さな庭に面し、 障子をひらけばすぐに地面へおりられる座敷に寝そべりながら、バラ色の (くちびる) と黒い (ひとみ) の、 しとやかな 乙女(おとめ) たちにかしずかれることだけが男の勤めであると言ったような----つまり、この世ながらのお (とぎ) の国。 だが、天の恵んだ、この幸福な島国をおとずれる機会がやってこようとは、夢にも思わなかったのである。
 その後まもなく、エルギン卿の使節記よりも前に出ていたペリー提督の遠征記が私の手に (はい) った。 これは体裁から見ても文体から言っても、エルギン卿のものよりずっとまじめな本ではあったが、前にうけた感銘を強めるのに役立っただけだった。 それからというものは、私はそのことばかり考えていたのである。
 ある日のことだった。当時私が学んでいたロンドンのユニバーシティ・カレッジの図書館に入ると、テーブルの上に告示がしてあった。


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