エントリーNO.508
岩波文庫を1ページ読書
カフカ寓話集

解説文(「岩波文庫解説総目録」或いは、表紙より引用)

「カフカ伝説」といったものがある。世の名声を願わず、常に謙虚で、死が近づいたとき友人に作品一切の焼却を依頼したカフカ----。 だが、くわしく生涯をみていくと、べつの肖像が浮かんでくる。 一見、謙虚な人物とつかずはなれず、いずれ自分の時代がくると、固く心に期していたもの書きであって、 いわば野心家カフカである。

発行
岩波文庫 1998年1月16日 第1刷
編訳者
池内 紀 (いけうち おさむ)  
タイトル
カフカ寓話集 (カフカぐうわしゅう)  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

    皇帝の使者
 伝わるところによると皇帝はきみに---- 一介の市民、哀れな臣民、皇帝の光輝のなかではすべもなく逃れていくシミのような影、 そんなきみのところに死の床から一人の使者をつかわした。 使者をベットのそばにひざまずかせ、その耳に伝言をささやいた。それでも気がかりだったのだろう。あらためてわが耳に復唱させ、聞きとったのちコックリとうなずいた。 そして居並ぶすべての面々の前で----壁はことごとく取り払われ、たかだかとのびてひろがる回廊をうめつくして帝国のお歴々が死を見守っている----その前で使者を出立させた。
 使者は走り出た。頑健きわまる、疲れを知らぬ男である。たくましい腕を打ち振り、大いなる群れのなかに道をひらいていく。 邪魔だてする者がいると胸を指した。そこには皇帝のしるしである太陽の紋章が輝いていた。身も軽々と使者は進んでいく。


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