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エントリーNO.507
岩波文庫を1ページ読書
夢十夜

解説文(「岩波文庫解説総目録」或いは、表紙より引用)

漱石には小品とよばれる一群の短篇がある。小品とはいうがその存在は大きく、戦後の漱石論は『夢十夜』の読み直しから始まったとさえ言われる。 ここには荒涼たる孤独に生きた漱石の最暗部が濃密に形象化されている。
(解説=阿部 昭、注=古川 久)

発行
岩波文庫 1993年11月15日 第20刷
著者名
夏目 漱石 (なつめ そうせき)  
タイトル
夢十夜 (ゆめじゅうや) 他二篇  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

    夢十夜
 第一夜
 こんな夢を見た。
 腕組みをして 枕元(まくらもと) (すわ) っていると、 仰向(あおむき) に寝た女が、静かな声でもう死にますという。
女は長い髪を枕に敷いて、 輪郭(りんかく) の柔らかな 瓜実顔(うりざねがお) をその中に横たえている。 真白(まっしろ) (ほお) の底に温かい血の色が (ほど) よく差して、 唇の色は無論赤い。到底死にそうには見えない。しかし女は静かな声で、もう死にますと 判然(はっきり) いった。 自分も (たしか) にこれは死ぬなと思った。 そこで、そうかね、もう死ぬのかね、と上から (のぞ) き込むようにして聞いて見た。 死にますとも、といいながら、女はぱっちりと眼を開けた。


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