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エントリーNO.60
岩波文庫を1ページ読書

           解説文(「岩波文庫解説総目録」より引用)
この戯曲は、身に徹して人生の悲哀を体験した作者(1891-1943)が、 親鸞聖人を主人公として、具体的に全人格的に自己の内的生活を表白したものである。 大正5年の発表以来、人生問題に悩める人びとの導きとなり、 思想界に偉大なる感激を与え、今もなお多数の読者を得ていることは、 この作の不朽の生命を証明するものである。
  解説=谷川徹三

発行
 岩波文庫 2008年12月15日 第7刷
著者名
 倉田 百三 (くらたももぞう)
タイトル
  出家(しゅっけ) とその 弟子(でし)
                    上記著作より、本文書き出し1ページを引用

  序 曲
    死ぬるもの
  ---ある日のまぼろし---
人間 (地上をあゆみつつ)わしは産まれた。そして太陽の光を浴び、大気を呼吸して生きて
 いる。ほんとに私は生きている。見よ。あのいい色の弓なりの空を。そしてわしのこ
 の素足がしっかりと踏みしめている黒土を。生いしげる草木、飛び廻る 禽獣(きんじゅう) 、さては
 女のめでたさ、子供の愛らしさ、ああわしは生きたい生きたい。(間)わしは今日まで
 さまざまの悲しみを知って来た。しかし悲しめば悲しむだけこの世が好きになる。あ
 あ不思議な世界よ。わしはお前に執着する。愛すべき 娑婆(しゃば) よ、わしは 煩悩(ぼんのう) の林に遊び
 たい。千年も万年も生きていたい。いつまでも。いつまでも。
顔蔽(かおおおい) いせる者 (あらわる)お前は何者じゃ。
人間 私は人間でございます。
顔蔽いせる者 では「死ぬるもの」じゃな。
人間 私は生きています。私の知っているのはこれきりです。

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