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エントリーNO.47
岩波文庫を1ページ読書

           解説文(「岩波文庫解説総目録」より引用)
取材のために訪れた向島は玉の井の私娼窟で、小説家大江匡はお雪という女に出会い、 やがて足繁く通うようになる。物語はこうしてぼく東陋巷を舞台に、 つゆ明けから秋の彼岸までの季節の移り変わりとともに、 美しくも、哀しく展開してゆく。昭和12年、荷風58歳の作。木村荘八の挿絵が興趣をそえる。   解説=竹盛天雄
   (サイト管理人 注 ”ぼくとうきだん”の”ぼく”という旧漢字を平仮名表現)

発行
 岩波文庫 2008年4月25日 第70刷
著者名
 永井 荷風 (ながい かふう)
タイトル
 ぼく東綺譚 (ぼくとうきだん)
                    上記著作より、本文書き出し1ページを引用

 わたしは (ほとん) ど活動写真を見に行ったことがない。
 おぼろ気な記憶をたどれば、明治三十年頃でもあろう。 神田 錦町(にしきちょう) にあった貸席 錦輝(きんき) (かん) で、 サンフランシスコ市街の光景を写したものを見たことがあった。 活動写真という言葉のできたのも恐らくはその時分からであろう。 それから四十余年を過ぎた 今日(こんにち) では、 活動という (ことば) は既にすたれて他のものに (かえ) られているらしいが、 初めて耳にしたものの方が口馴れて言いやすいから、わたくしは依然としてむかしの廃語をここに用いる。
 震災の (のち) 、わたくしの家に遊びに来た青年作家の一人が、時勢におくれるからと言って、 無理やりにわたくしを赤坂 溜池(ためいけ) の活動小屋に連れて行ったことがある。

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