エントリーNO.493
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デミアン

解説文(「岩波文庫解説総目録」或いは、表紙より引用)

デミアンは、夢想的でありながら現実的な意志をいだき、 輝く星のような霊気と秘めた生気とをもっている謎めいた青年像である。 「人間の使命はおのれにもどることだ」という命題を展開したこの小説は、 第一次大戦の精神の危機を脱したヘッセ(1877-1962)が、世界とおのれ自身の転換期にうちたてたみごとな記念碑ともいうべき作品である。

発行
岩波文庫 2011年3月7日 第63刷
著者名
ヘルマン・ヘッセ  
タイトル
デミアン  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

    デミアン
      ----エミイル・ジンクレエルの青春の物語----
   ぼくはもとより、自分の中からひとりでにほとばしり出ようとするも
   のだけを、生きようとしてみたにすぎない。どうしてそれが、こんな
   に難しかったのだろう。
      -----------------------------------

 この物語を述べるためには、ぼくはずっと前のほうからはじめなければならない。 もしできたら、もっとずっと遠くまで、ぼくの幼年時代のそもそものはじめまで、さらにそれをこえて、ぼくの血統の遠い過去までも、さかのぼらねばならぬところだ。
 作家たちは、小説を書くとき、まるで自分たちが神であって、ある人間の歴史を、すみからすみまで見わたしうるかのような、そしてそれをいかにも神が神自身に語り聞かせでもするように、 きわめてあからさまに、どんな場合でも実質的に、書きあらわしうるような、そういう態度をとるのが常である。 そんなまねはぼくにはできない----作家たちにもそんなことができぬと同じく。しかしぼくの物語は、ぼくにとって、ある作家から見たかれの物語よりも、さらに重要である。 つまり、それはぼく自身の物語であって、ある人間の----仮構の、ありうる、観念上の、またはそれ以外の意味で実在しない人間の物語ではなく、 現実の、ただ一度きりの、生きた人間の物語だからである。


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