エントリーNO.492
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サキ傑作集

解説文(「岩波文庫解説総目録」或いは、表紙より引用)

同じく短篇の名手といってもサキ(1870-1916)とオー・ヘンリーでは読後感がまるで違う。 涙や笑いの生み出す人生の温もりはサキには無縁なのだ。 残酷と恐怖、怪奇と不気味が支配するその世界をかいま見るものは、思わず背筋の寒くなるのを感ずるだろう。

発行
岩波文庫 2010年3月16日 第34刷
訳者
河田 智雄 (かわだ ともお)  
タイトル
サキ傑作集 (サキけっさくしゅう)  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

    アン夫人の沈黙
              The Reticence of Lady Anne
 エグバードは、これから鳩小屋に入ろうとしているのか、爆弾工場に入ろうとしているのかまるで予想がつかないが、 どちらにころんでも覚悟はできているといった様子で、大きな、薄暗い客間に入って行った。 昼食の時にちょっとした夫婦喧嘩をやらかし、まだその始末をつけていなかったのである。 問題は、アン夫人がどんなつもりなのかということだった。 喧嘩を蒸し返す気でいるのか、それとも仲直りする気でいるのか。 アン夫人は茶卓のそばの肘掛け椅子にすわっていたが、その姿勢はわざとのようにしゃちこばっていた。 十二月の午後の薄明りの中では、エグバードの鼻眼鏡も、婦人の顔の表情を読み取る役には立たなかった。
 少しでも和解の糸口をつけようとして、エグバードは、薄暗くてまるで僧院の中にいるみたいだと言った。


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