エントリーNO.483
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家郷の訓

解説文(「岩波文庫解説総目録」或いは、表紙より引用)

著者の故郷である山口県大島の明治末から大正にかけての暮らしの中に、子供の躾のありようを描いた出色の生活誌。 「忘れられた日本人」をはじめ多くの優れた業績を遺した宮本民俗学の原点を示す書であり、子ども・民俗・教育を考える人への格好の贈り物。 故郷の風土を克明に描いた「私のふるさと」を併収。解説=原ひろ子

発行
岩波文庫 1984年7月16日 第1刷
著者名
宮本 常一 (みやもと つねかず)  
タイトル
家郷の訓 (かきょうのおしえ)  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

    私の家
 旅をして子を育てる女親たちの尊い姿に接する時、思い出されてくるのは私の母である。 私の母は今も故里に建在して百姓をしている。村々の母刀自たちがその家郷の生活に何よりも愛着を感じ、ひたぶるに生きているごとく、 私の母も三人の子を旅に出したまま、ひとり故里の土を守っているのである。 そしてこれは決して単なる頑迷からではない。その土は (みずか) らが最後まで守らねばならぬことを最もよく知っているからである。 ゆえに一族のすべての人びとに代ってこの土を守っている。そういう気持ちが私にはよく分る。 六十を越えた (とし) で田畑の労働はかなりはげしい。 しかし父の植えつけた 蜜柑(みかん) と父が飼う術を村につたえた養蚕の業は、 形ばかりではあるけれども、今も守っている。私はそこに古い時代の型の女の愛情の表現を見るように思うのである。
 私の家は極貧の日が長かった。その不幸の歴史は防長征伐の時からはじまる。


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