エントリーNO.466
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ギッシング短篇集

解説文(「岩波文庫解説総目録」或いは、表紙より引用)

『ヘンリ・ライクロフトの私記』で知られるギッシング(1857-1903)は、初期は長編小説が主だったが、 1890年代になって、当時の出版状況や家庭事情などから次第に短篇が作品の中心となり、 数多くのすぐれた短篇をのこした。食費を削ってまで好きな本を買い漁る男を描く「クリストファーソン」など8篇を収録。 うち本邦初訳2篇。

発行
岩波文庫 1997年4月16日 第1刷
編訳者
小池 滋 (こいけ しげる)  
タイトル
ギッシング短篇集 (ギッシングたんぺんしゅう)  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

    境遇の犠牲者
  1
 一八六九年の夏のこと、イギリスの 田舎(いなか) の果てまで放浪していたある画家が、 ある晴れた朝グラストンベリー町を歩いていた。イギリス人のほとんどがそうであるが、彼は自国の古代史についてほとんど関心を持っていなかった〔詳しくは解説を参照〕。 アヴァロンの神話など全く想像力をかき立てられなかったし、聖ダンスタンの名も昔の教科書のかすかな記憶を呼び起こしてくれるだけだった。 彼が嬉しく思ったのは、静かな町なみの 類稀(たぐいまれ) な古風な美しさ、 (つた) に一面 (おお) われて、 大きなエルムの木立や、羊が草を () んでいるなめらかな草地に囲まれた僧院の廃墟、 どちらを見ても目に入る素材で美しい風景などであった。数日ここで滞在したいと思ったが、夕方には次の場所へ是が非でも行かねばならないのだ。
 四百年前に巡礼のために建てられた古い宿屋で昼食を済ませると、どうしてもという気は起こらないが、訪ねてみなければいけない名所へと足を向けた。


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