エントリーNO.456
岩波文庫を1ページ読書
自叙伝

解説文(「岩波文庫解説総目録」或いは、表紙より引用)

明治・大正・昭和を通じて六十年、いわば求道者として、思想上でも実践面でも、ひたむきに、しかも変転極まりない道程をたどった河上肇(1879-1946)。 その強みも弱みも包み隠さずさらけ出した文学的薫り高いこの自叙伝は、人をひきつけてやまない。(全5冊)

発行
岩波文庫 1996年10月16日 第1刷
作者名
河上 肇 (かわかみ はじめ)  
タイトル
自叙伝 (自叙伝) 全5冊  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

    一  〔私の書きたいことども〕
  今年(ことし) 私は「自画像」と題して、私が二十六歳の時、無我愛運動に身を投じた頃のことから、 五十一歳を過ぎて労農党の樹立及び解消のため懸命になった頃のことまで、言わば私の生涯の中核に当る時代の思い出を、かなり (くわ) しく。書き上げることが出来た。 それだけの事をしてしまえば、もう思い残すほどのこともないというような気持になって、私は心に急ぎながら、朝起きるとから夜寝るまで、毎日のように机に (かじ) りついて暮らしたが、 さて書きおえてしまって見ると、私はまた二、三年前のように、とかく発熱し易いからだになって、近頃はどうかすると寝込む日が続いているが、 しかしまだ急に死にそうでもなく、健康が平常に復している場合は、朝も五時頃から起きて、 () ぐにも机に向かうことが出来、 ものを書く興味と気力は、幸にしてまだ少しも衰えていない。
 でも「自画像」を書きおえた後は、さすがに自分の思い出を書くことには飽きてしまったので、 私は前年から続けている 陸放翁(りくほうおう) の詩の注釈の方へ筆を移し、 これまた、始めて見ると中々興味があるので、毎日々々休みなしにその仕事を続けているうちに、昨日になって (ようや) く「六十後半(六十四歳より七十歳に達するまで)の放翁」と題する百八十余枚の稿を書きおえた。


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