エントリーNO.447
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日本倫理思想史

解説文(「岩波文庫解説総目録」或いは、表紙より引用)

『倫理学』と並ぶ和辻哲郎の主著。古代から近代に至る倫理思想の展開とそれを支える社会構造の変遷を、 宗教から文学まで視野に収めた壮大なスケールで描き出す試みは、日本思想の通史としていまだ類例がない。 戦後まもない1952年に刊行された本著は、これ自体が近代日本の思惟の可能性と困難を照らす生きた資料である。(全4冊)

発行
岩波文庫 2011年4月15日 第1刷
著者名
和辻 哲郎 (わつじ てつろう)  
タイトル
日本倫理思想史 (にほんりんりしそうし) 全4冊  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

    緒論
 ここに始めようとするのは、日本における倫理思想の歴史的叙述である。 そこでその歴史的叙述にはいる前に、問題とせられる倫理思想とは何であるか、それは倫理といかに関係し、 倫理学といかに区別せられるか、そもそもそれが歴史的に変遷するとは何を意味するか、について、 一通り述べておかなくてはならぬ。
 元来、「倫理」とは、個人にして同時に社会であるところの人間の存在の理法である。 従って、人間の存在するところには、すでに倫理は働いている。 社会を形成する以前の孤立的個人というごときものは、人間あって以来、かつて存在したこともないし、また存在してもいない。 近代に至って、ブルジョワ社会が発展し、個人の権利が反省されるに従い、そういう孤立的な原始人を想定することが行なわれ出しはしたが、 しかしそれは社会的な個人の存在のなかから社会的な契機を捨象して見ただけであって、それが人間の自然状態であるという実証はどこにもないのである。 近来の原始社会の研究は、むしろ逆に、原始人は全然集団的であって個性を持たないという反対の極へ走りそうな危険をさえ示している。


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