エントリーNO.435
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雨夜譚

解説文(「岩波文庫解説総目録」或いは、表紙より引用)

激動の幕末維新を背景に、大実業家・渋沢栄一(1840-1931)が疾風怒涛の青春を語る自伝。 尊攘倒幕の志士→徳川家家臣→明治政府官僚と転身を重ねる著者の生き方は鋭い現実主義に貫かれた魅力をもち、 維新変革をなしとげたエネルギーが生きいきと伝わってくる。 実業家時代を概観した「維新以後における経済界の発展」を併収。

発行
岩波文庫 1994年12月16日 第5刷
著者名
渋沢 栄一 (しぶさわ えいいち)  
タイトル
雨夜譚 (あまよがたり)  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

    雨夜譚 巻之一
 青淵先生口演                門生筆記
 今晩はかねて約束してありました通り、自分が今日まで経過して来た一身上の履歴を御話いたします。 しかし自分は、モウ四十七年半ばかりの 星霜(せいそう) を経て居るから、 その間には、世の中も種々なる変遷があり、その変遷につれて、自分の一身上も種々様々に変化して居ることであるから、これを細かに談話すると、 ずいぶん長くもなり、その中にははなはだ面白くなくて、 (あくび) (のび) 種子(たね) ともなり、 眠気の (もと) となることもありましょうが、つまりこの話は、聴衆一同のために、 事によっては奮発心を興すとか、または忍耐の念を強くするとか、または勇敢の気象を生ずるとか、または 謹粛(きんしゅく) の意念を守るとかいうように、せめては一個の効能を与えたいという婆心から、 この席を開いたのだから、談話の長いのは (いと) わず、またいたずらに耳に聞き流すのみではなく、 能々(よくよく) 心の底に聞き留めてもらいたいものであります。


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