エントリーNO.428
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アブサロム、アブサロム!

解説文(「岩波文庫解説総目録」或いは、表紙より引用)

九月の午後、藤の咲き匂う古家で、老女が語り出す半世紀前の一族の悲劇。 一八三三年ミシシッピに忽然と現れ、無一物から農場主にのし上がったサトペンとその一族はなぜ非業の死に滅びたのか? 南部の男たちの血と南部の女たちの涙が綴る一大叙事詩。(全二冊)

発行
岩波文庫 2011年10月14日 第1刷
著者名
フォークナー  
タイトル
アブサロム、アブサロム! (全2冊)  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

    T
 長く静かで暑く物憂く死んだような九月の午後の、二時を少しまわってからほとんど日没近くまで、二人は、ミス・コールドフィールドが父親がそう呼んでいたままに、 今も 仕事部屋(オ フ ィ ス) と呼んでいる部屋に座っていた---- その薄暗くて暑くて風通しの悪い部屋は、彼女が子供の頃、日射しや風が当たると熱気が入るとか、暗い方がいつも涼しいとか言う人がいたので、 四十三年(一八六六年から現在の一九〇九年までを指す)もの夏のあいだ、ブラインドを閉じ締めきったままにしてあり、 そのため、その部屋の中では(太陽が窓のそちら側を、日増しに激しい暑さでまともに照りつけるにつれて)細かい (ほこり) の立ちこめる黄色い光の 線条(すじ) が格子模様を作るようになっていたが、 クエスティンには、その埃は、まるで風に吹き落とされたみたいに () がれかけたブラインドから部屋に散って、 かさかさに干からびた古ペンキの粉末のように思えた。 一つの窓の前にある木組みの格子棚にはその夏二度目の藤の花が咲き乱れ、そこへ時折、雀が気まぐれな風に乗ってやって来ては、乾いた元気のよい埃っぽい音を残して飛び去った、


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