エントリーNO.416
岩波文庫を1ページ読書
谷崎潤一郎随筆集

解説文(「岩波文庫解説総目録」或いは、表紙より引用)

日本伝来の生活様式や風俗の独自性を説き、そのよろこばしき効用を礼讃した「陰翳礼讃」は、 日本の伝統美の本質をついた卓抜な文明批評である。この「陰翳礼讃」をはじめ、「恋愛及び色情」「懶惰の説」など文豪谷崎潤一郎の代表的随筆11篇を精選した本書は、 数々の名作を生んだ谷崎文学の秘密を十全に解き明かしてくれる随筆集。

発行
岩波文庫 1985年8月16日 第1刷
編者
篠田 一士 (しのだ はじめ)  
タイトル
谷崎潤一郎随筆集 (たにざきじゅんいちろうずいひつしゅう)  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

    「門」を評す
 ぼくは 漱石(そうせき) 先生を (もっ) て、 当代にズバ抜けたる頭脳と技倆とを持った作家だと思っている。 多くの欠点と、多くの批難とを有しつつなお先生は、その大たるにおいて容易に他の企及すべからざる作家だと信じている。 紅葉(こうよう) なく 一葉(いちよう) なく 二葉亭(ふたばてい) なき今日において、 僕は誰に遠慮もなく先生を文壇の第一人と認めている。 しかも従来先生の評判は、その実力と 相伴(あいともな) わざる (うらみ) があった。 それだけ僕は、先生について多くのいいたい事論じたい事を持っている。 「門」を評するに (あた) りて、先ずこれだけの断り書きをして置かないと、安心して筆を執ることが出来ない。
 「それから」は 代助(だいすけ) 三千代(みちよ) とが姦通する小説であった。 「門」は姦通して夫婦となった 宗助(そうすけ) とお (よね) との小説である。 この二篇はいろいろの点から見て、切り放して読む事の出来ない理由を持っている。 勿論(もちろん) 先生はその後の代助三千代を書くつもりで、 「門」を作られたのであろう。そこで僕も始終「それから」と比較して、自分の考をいおうと思う。
 誰やらが「漱石は自然主義に近くなった。」といったと覚えている。


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