エントリーNO.407
岩波文庫を1ページ読書
モーム短篇選

解説文(「岩波文庫解説総目録」或いは、表紙より引用)

長篇小説『人間の絆』『月と六ペンス』の作家サマセット・モーム(1874-1965)は、 絶妙な語り口と鋭い人間描写で読者を魅了するすぐれた短編小説も数多く残している。 希代のストリーテラー・モームの魅力を存分に楽しめる作品を厳選して収録。(全2冊)

発行
岩波文庫 2008年9月17日 第1刷
編訳者
行方 昭夫 (なめかた あきお)  
タイトル
モーム短篇選 (モームたんぺんせん) 全2冊  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

    エドワード・バーナードの転落
 べイトマン・ハンターは夜熟睡できなかった。タヒチ島からサンフランシスコまでの二週間の船旅では、 シカゴに戻ってからどういう報告をすべきかについて頭を悩ませていたし、 さらにサンフランシスコからの三日の列車の中では、報告をどのような言葉で伝えるべきか、とつおいつ思案していたのだ。 だが、もう数時間でシカゴに到着してしまう今となると、また疑念が襲いかかってきた。 生まれつき潔癖な性質だったので、良心に照らして自分に恥ずべき点が全然ないとは、言えないような気がしてきた。 出来るだけの努力はしました、と堂々と言えるかどうかも自信がなくなった。
 出来るだけのことを、名誉にかけてもなそうと決心していたのだが、今回の役目は自分の利害にかかわることであったため、 名誉よりもわが身の利益を優先させたような気がして落ち着かなかった。 自己犠牲という徳目は彼にとって大事であったから、自分がこの徳目を十分に実行していないという思いは自信喪失につながるのであった。 博愛心から貧民のために住居を建てた慈善家が、儲け仕事をする結果になったようなものだった。


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