エントリーNO.401
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幸福論

解説文(「岩波文庫解説総目録」或いは、表紙より引用)

人生いかに生くべきか、幸福とは何か----誰もが若い日々に、あるいは年を経てからも、 繰り返し確認し納得したいという強い思いに駆られる。 本書は、秀れた法哲学者で無教会キリスト者である著者(1889-1944)が、 深い学識と信仰を基に、この永遠のテーマについて明晰に述べた遺著で、 読む者をしっかととらえて放さない。
(解説=武田清子)

発行
岩波文庫 1992年1月16日 第1刷
著者名
三谷 隆正 (みたに たかまさ)  
タイトル
幸福論 (こうふくろん)  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

    第一章 幸福論の歴史
  一 ソクラテス学派
 西暦紀元前三九九年の晩春アテネでソクラテスが刑死した。人間の歴史あって以来、ソクラテスの死ほど堂々たる死を死んだ人間は他にない。 法廷に立っての毅然たる弁明、死刑宣告直後の悠々たる直言宏辞。 (しか) り余りにも悠々たり、余りにも毅然たるかれの最後は、 死して後までかれに対する敵の憎しみを刺激したのであった。 それほどまでに堂々たる死を彼は死んだ。 それはまさしく (おおい) なる 預言者(よげんしゃ) の死であった。 プラトンの筆になる『クリトン』『ソクラテスの弁明』『パイドン』の三雄篇は、この偉大なる死の前後を活写して霊気人に迫るものがある。 かくも偉大なる死を死に得たるソクラテスは、当然またその生き方において、絶倫なる生を生きぬいた巨人であった。 かれこそは精神界不世出の英雄豪傑、かれの存在そのものが学であり、真理への道であった。だからかれの哲学と思想とを排撃せんとしたる徒輩が、 ソクラテスその人を殺すことによってその目的を達成し () と信じたのは自然であった。


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