エントリーNO.396
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腕くらべ

解説文(「岩波文庫解説総目録」或いは、表紙より引用)

誠と意地に生きる新橋の芸妓駒代は、いっさいの義理人情を弁えない男女の腕くらべに敗れ去る。 この女性に共感を寄せる講釈師呉山や文人南山。 長年の遊蕩生活に社会の勝利者への嫌悪を織りこみ、失われゆく古きものへの愛惜をこめて書かれた荷風中期の代表作。 佐藤春夫は浮世絵風の様式描写があると絶讃した。
解説=坂上博一

発行
岩波文庫 1987年2月16日 第1刷
著者名
永井 荷風 (ながい かふう)  
タイトル
腕くらべ (うでくらべ)  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

    一  幕あい
  幕間(まくあい) に散歩する人たちで帝国劇場の廊下はどこもかしこも押合うような混雑。 丁度表の階段をば下から昇ろうとする一人の芸者、上から降りて来る一人の 紳士(しんし) (あやう) くぶつかろうとして顔を見合わせお互にびっくりした調子。
 「あら、 吉岡(よしおか) さん。」
 「おやお前は。」
 「何てお 久振(ひさしぶり) なんでしょう。」
 「お前、芸者をしていたのか。」
 「去年の暮から・・・また出ました。」
 「そうか。何しろ久振だ。」
 「あれから丁度七年ばかり引いていました。」
 「そうか、もう七年になるかな。」


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