エントリーNO.394
岩波文庫を1ページ読書
食道楽

解説文(「岩波文庫解説総目録」或いは、表紙より引用)

明治期の新聞小説の第一人者村井弦斎(1863-1927)の代表作。 和洋六百数十種もの料理を盛り込み、明治三六年一月から一年間『報知新聞』に連載され熱狂的な人気を博し、 単行本として刊行されるや空前の大ベストセラーとなった。
(解説=黒岩比佐子)(全二冊)

発行
岩波文庫 2005年7月15日 第1刷
著者名
村井 弦斎 (むらい げんさい)  
タイトル
食道楽 (しょくどうらく) 全2冊  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

    第一  腹中(ふくちゅう) の新年
 今日は正月の元日とて 天地乾坤自(てんちけんこんおのずか) ら 長閑(のどか) なる中にこにこも春風の 浸(し) みて来にけん。 腹の中にて新年を祝する 胃吉(いきち) と 腸蔵(ちょうぞう) 「おい胃吉さん、おめでとう」胃吉「ヤアこれは腸蔵さん、 去年中は色々お世話さまでしたね。 また相変りませずか、アハハ。時に腸蔵さん、今日は正月の元日といって一年に一度の日だからお 互(たがい) に少し楽をしたいね。 私たち位年中忙しくってみじめなものはないぜ。 娑婆(しゃば) の人間は日曜日だの暑中休暇だのと一年中には沢山な休みがある。 いくら忙しい奉公人でも盆と正月に 藪入(やぶいり) があるけれども私たちばかりは一年中休みなしだ。 私は一日に三度ずつ働いていれば自分の役が済むのにここでは 間食(あいだぐい) が好きで三度の 外(ほか) にヤレ菓子が飛込む、 団子(だんご) が飛込む、酒も折々流れ込むからホントに 溜(たま) ったものでない。 それだから自然と仕事も粗末になって荒ごなしの物を 和郎(おまえ) さんの方へ送って 進(あ) げて毎度 剣突(けんつく) を 喰(く) うがこれからはお互に仲を 好(よ) くしようではないか」 腸蔵「それは私も大賛成さ。和郎さんは 消化(こな) すのが役、私は絞るのが役だから和郎さんの方でよく 食物(しょくもつ) を消化してくれれば私だって絞る仕事も楽だけれども、毎日のように消化れないものをよこすので時によっては和郎さんの方へ 突戻(つきもど) したり、 時によっては下の方へ押流したりする事もある。


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