エントリーNO.382
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歌よみに与ふる書

解説文(「岩波文庫解説総目録」或いは、表紙より引用)

明治31年に発表された表題作は、「古今集」を和歌の聖典としてきた千年近い歴史がもつ価値観を転倒させた衝撃的な歌論であった。 万葉の歌風を重んじ、現実写生の原理を究明した子規の歌論は、全篇に和歌改革への情熱がみなぎり、今なおわれわれを打つ。
解説=土屋文明

発行
岩波文庫 1984年7月20日 第10刷
著者名
正岡 子規 (まさおか しき)  
タイトル
歌よみに与ふる書 (うたよみにあたふるしょ)  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

     歌よみに与ふる書
  (おおせ) (ごと) く近来和歌は一向に振ひ 不申(もうさず) 候。 正直に申し候へば万葉以来 実朝(さねとも) 以来一向に振ひ不申候。 実朝といふ人は三十にも足らで、いざこれからといふ処にてあへなき最期を遂げられ誠に残念致し候。 あの人をして今十年も () かして置いたならどんなに名歌を沢山残したかも知れ不申候。 とにかくに第一流の歌人と (ぞんじ) 候。 (あなが) 人丸(ひとまろ) 赤人(あかひと) 余唾(よだ) (ねぶ) るでもなく、 (もと) より 貫之(つらゆき) 定家(ていか) 糟粕(そうはく) をしやぶるでもなく、 自己の本領 屹然(きつぜん) として 山岳(さんがく) と高きを争ひ日月と光を競ふ処、 実に (おそ) るべく尊むべく、 覚えず (ひざ) を屈するの思ひ 有之(これあり) 候。 古来凡庸の人と評し来りしは必ず (あやまり) なるべく、 北条氏を (はばか) りて 韜晦(とうかい) せし人か、 さらずば大器晩成の人なりしかと覚え候。 人の上に立つ人にて文学技芸に達したらん者は、人間としては下等の地にをるが通例なれども、 実朝は全く例外の人に相違 無之(これなく) 候。


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