エントリーNO.371
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世論

解説文(「岩波文庫解説総目録」或いは、表紙より引用)

リップマン(1889-1974)が『世論』を書いた動機は、第一次世界大戦の混乱の原因究明にあった。(1992年刊)。 にも拘らず我々がこの書を手にすると、あたかも現在を分析し警告を発しているかのような切迫感を覚える。 それは、大衆心理がいかに形成されるかを出発点として、人間と環境の基本的な関係を、イメージの概念から明晰に解いているからだ。(全2冊)

発行
岩波文庫 1987年7月16日 第1刷
著者名
W.リップマン  
タイトル
世論 (よろん) 全2冊  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

  第一部 序
   第一章 外界と頭の中で描く世界
  1
 一九一四年のこと、大洋に浮かぶある島にイギリス人、フランス人、ドイツ人たちが住んでいた。 島には電信も通じておらず、イギリスの郵便船がふた月に一度訪れるのみであった。 その年九月、郵便船はまだ来ていなかった。そこで島の住民たちの話題といえば、いまだにガストン・カルメット射殺犯、 カイヨー夫人裁判(一九一四年、パリ。『フィガロ』紙編集長ガストン・カルメットが蔵相ジョゼフ・カイヨーの夫人に射殺された。)のことであった。 先便の新聞に、判決近しと報じられていたのである。 そのため、九月半ばの船着き場に島じゅうから集まった人たちは、いつもに増して興味津々、船長から判決内容を聞こうとしていた。 ところが知らされたのは、実はもう六週間以上も前から、イギリス、フランス両国民が、条約の神聖を守るためにドイツ国民と戦闘状態に入っていたということ、したがって、 島に住む人たちもその例外ではなかったということだった。 その間、島の人びとは現実には敵同士であったのに、まるで友人同士のように振舞っていたわけである。


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