エントリーNO.366
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ユートピア

解説文(「岩波文庫解説総目録」或いは、表紙より引用)

表題の「ユートピア」とは「どこにも無い」という意味のトマス・モア(1478-1535)の造語である。 モアが描き出したこの理想国は自由と規律をかねそなえた共和国で、国民は人間の自然な姿を愛し「戦争でえられた名誉ほど不名誉なものはない」と考えている。 社会思想史上の第一級の古典であるだけではなく、読物としても十分に面白い。

発行
岩波文庫 1994年9月16日 第1刷 
著者名
トマス・モア  
タイトル
ユートピア  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

    第一巻
    国家の最善の状態についてのラファエル・ヒスロデイの物語
 いまだ敗れることを知らず、かつまた王者の徳において 比肩(ひけん) するもののないわがイギリス国王ヘンリ八世陛下は、 最近、 英邁(えいまい) なカスティリヤ王(のちのドイツ皇帝カルル五世のこと)との間に 若干(じゃっかん) の重大な要件に関して 紛争(ふんそう) をおこされるところがあった。 この問題について討議し、最後的な解決をはかるために、私は国王陛下の (めい) を受け、 使節としてフランダーズに (おもむ) き、 カスバート・タンストール(1474-1559聖職者)と協力、使命の達成にあたることになった。 この人はまさしく当代まれに見る人物で、国王陛下の 思召(おぼしめし) によって最近 記録保管官(マスタ・オブ・ザ・ロールズ) の職に 抜擢(ばってき) され一般の好評を博したことは衆人の知る通りである。 しかしこの人のことを私は今ほめるつもりは 毛頭(もうとう) ない。 というのは、友人の口から出る証言なぞ誰もあまりあてにすまい、などということを恐れるからではなく、実をいうと彼のすぐれた人格と学識をほめるということが私の 筆舌(ひつぜつ) のよく及ぶところではないからである。 それに第一、彼の人格・学識、これを知らない者はどこにいってもまずなかろう。 だから今更私のような者がほめたりする必要もなければ、ほめるべき 筋合(すじあい) のものでもないと思うのだ。 もっとも、 (ことわざ) にもいうように、太陽を 蝋燭(ろうそく) の火で照らしだそうとでもいうのなら、 また話は別である。
 われわれは、かねて打ち合わせてあった通り、この問題のため特に委員として任命された相手側の人々とブルージュにおいて会見したが、彼らはいずれも皆立派な人たちばかりであった。 特に委員長はブルージュ 辺境伯(へんきょうはく) と呼ばれていた人で、 なかなか人格の 高潔(こうけつ) な人であった。 しかし中でも一番頭もよく、また口も 達者(たっしゃ) な人はジョージ・テムシスというカッセルの修道院長であった。


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