エントリーNO.365
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ワシントン・スクエア

解説文(「岩波文庫解説総目録」或いは、表紙より引用)

「父には、弱いといえるところが一つもないんですの」完璧な父を敬愛する、 内向的で平凡な容姿のキャサリン。 彼女の前に現れた美貌の求婚者----十九世紀半ばのニューヨークを舞台に、 鋭敏な描写で人間心理の交錯と陰影を映し出す、ジェイムズ(1843-1916)初期の佳作。

発行
岩波文庫 2011年8月18日 第1刷
著者名
ヘンリー・ジェイムズ  
タイトル
ワシントン・スクエア  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

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 十九世紀前半、さらに詳しく言えばその後半のことである。ニューヨークの町に一人の隆盛をきわめた開業医がいて、 名医というものがふつう受ける以上の、大きな敬意を集めていた。 アメリカでは医者は常に立派な職業として尊重され、紳士階級だと自称する正当性を他のどこよりも獲得している。 自分で働いて収入を得るか、得ているふりを装わなくては一人前とされないこの国で、医者は二つの信望の要素を見事に調和させることができる地位と言えよう。 アメリカで高く推奨される実践という領域に立ちながら、同時に学問の様相も備えているからである。 知識を愛するからと言って必ずしも機会やゆとりに恵まれるとは限らないことを考えれば、これは確かに評価すべき特典であった。
 スローパー博士は、学問と技術の釣合がとれていると評判だった。 いわば学者肌の医者だったが、治療は抽象的ではなく、必ず具体的な処方があった。 徹底を好む人という印象だが、いやになるほど理論派というわけでもない。 患者に対して、必要と思われる以上の詳細な説明をすることも時としてあったが、一部の開業医のように説明だけで終わりとはせず、 難しく書かれた処方箋も必ず出すのだった。


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