エントリーNO.356
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シッダルタ

解説文(「岩波文庫解説総目録」或いは、表紙より引用)

シッダルタは学問と修行を積み、聖賢になる道を順調に歩んでいた。 だがその心は一時として満たされることはなかった。 やがて俗界にくだったシッダルタだったが----。 深いインド研究と詩的直感とが融合して生み出された〈東洋の心〉の結晶とも言うべき人生探求の物語。 原文の格調高い調べを見事な日本語に移した達意の訳。

発行
岩波文庫 2011年8月18日 第1刷
著者名
ヘッセ  
タイトル
シッダルタ  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

 ちちははの家
  (かげ) なす我が家のほとりに、 日あたる川岸の小舟のかたわらに、 沙羅(さら) の森、 無花果(いちじく) の木蔭に、 婆羅門(ばらもん) の美しい子、 若き (たか) 、 シッダルタは、彼の友で同じ婆羅門の子であるゴヴィンダとともに育った。 川の岸辺で、彼が (ゆあみ) するとき、 (きよ) めのすすぎを行うとき、 聖なる犠牲を捧げるとき、日は彼のかがやかな肩の肌を褐色に染めた。 マンゴーの森で、彼が少年らしい遊びに (ふけ) るとき、 母の歌にうっとりとするとき、聖なる犠牲を捧げるとき、学識深き彼の父の教えに耳を傾けるとき、 賢者の談話の席につらなるとき、 木下闇(このしたやみ) の影は彼の 漆黒(しっこく) の眼に流れ入った。 まことにシッダルタは、すでに幼少から賢者の談話に加わり、ゴヴィンダを相手に弁論の術をみがき、ゴヴィンダとともに 瞑想(めいそう) の術、静観の勤めにはげんだ。 すでに彼は声を用いることなく、言葉のうちの言葉「オーム」を発することができた。 心を一点に集め、 (ひたい) をくもりなき 叡智(えいち) に輝かせて、 その聖語を、入る息とともに声なくしておのが内へ (ささや) き、 吐く息とともに声なくしておのが外へ囁くことができた。 すでに彼は、自己の本性の内部に、 金剛不壊(こんごうふえ) にして万有と一体なる 真我(アートマン) の存在を悟ることができたのだ。
(サイト管理人 注 「オーム」のあとのカッコ内漢字見当たらず)


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