エントリーNO.355
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鏡花短篇集

解説文(「岩波文庫解説総目録」或いは、表紙より引用)

現実界を超え、非在と実在が交錯しあう幻視の空間を現出させる鏡花の文学。 その文章にひそむ魔力は、短篇においてこそ、凝集したきらめきを放ってあざやかに顕現する。 そうした作品群から、定評ある『竜潭譚』『国貞えがく』をはじめ、絶品というべき『二、三羽----十二、三羽』など九篇を選び収める。

発行
岩波文庫 1987年11月2日 第2刷
編者
川村 二郎 (かわむら じろう)  
タイトル
鏡花短篇集 (きょうかたんぺんしゅう)  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

     竜潭譚(りゅうたんだん)
 躑躅か丘  鎮守の杜  かくれあそび  あふ魔が時  大沼
 五位鷺  九ツ谺  渡船  ふるさと  千呪陀羅尼
     躑躅(つつじ) か 丘(おか)
 日は 午(ご) なり。あらら 木(ぎ) のたらたら坂に 樹(き) の蔭もなし。 寺の 門(もん) 、植木屋の庭、花屋の店など、坂下を 挟(さしはさ) みて町の入口にはあたれど、 のぼるに従ひて、ただ 畑(はた) ばかりとなれり。 番小屋めきたるもの小だかき 処(ところ) に見ゆ。 谷には 菜(な) の 花(はな) 残りたり。 路(みち) の右左、 躑躅(つつじ) の花の 紅(くれない) なるが、見渡す 方(かた) 、 見返る 方(かた) 、いまを 盛(さかり) なりき。 ありくにつれて 汗(あせ) 少しいでぬ。
 空よく晴れて一点の雲もなく、風あたたかに 野面(のづら) を吹けり。
 一人にては 行(ゆ) くことなかれと、 優(やさ) しき姉上のいひたりしを、 肯(き) かで、しのびて来つ。 おもしろきながめかな。山の上の 方(かた) より 一束(ひとたば) の 薪(たきぎ) をかつぎたる 漢(おのこ) おり 来(きた) れり。 眉(まゆ) 太く、 眼(め) の細きが、 向(むこう) ざまに鉢巻したる、 額(ひたい) のあたり汗になりて、 のしのしと近づきつつ、細き道をかたよけてわれを通せしが、ふりかへり、
 「危ないぞ危ないぞ。」
(サイト管理人 注 「鉢巻(=はちまき)」旧漢字見当たらず。)


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