エントリーNO.351
岩波文庫を1ページ読書
茶話

解説文(「岩波文庫解説総目録」或いは、表紙より引用)

大正5年春、「お茶を飲みながら世間話をするような気持ちで、また画家がカリカチュウルを描くような気持ちで」始めた新聞連載「茶話」は、すぐに大人気を博した。 古今東西のさまざまな人物の逸話やゴシップを、ぴりりとスパイスをきかせて披露する、コラムの嚆矢。 総数800篇余から著者自選の154篇を収録。(解説=坪内祐三)

発行
岩波文庫 1998年7月16日 第1刷
著者名
薄田 泣菫 (すすきだ きゅうきん)  
タイトル
茶話 (ちゃばなし)  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

    焼肴は右か左か
 「金は (しの)
  詩は三本木
  書は 貫名(ぬきな)
  学は猪飼に
  粋は文吉」
とは、儒者 中島棕隠(なかじまそういん) が自分の友達の特長を謳ったもので、 篠は篠崎 小竹(しょうちく) 、三本木は頼山陽、 貫名は 海屋(かいおく) 、猪飼は 敬所(けいしょ) 、 文吉というのは言うまでもなく棕隠自身の事である。
 粋は文吉と言っただけに、棕隠はなかなかの洒落者であった。ある時知合の家へ訪ねてゆくと、ちょうど山陽もそこに来合わせていて、 時分どきだというので、昼飯の馳走にあずかろうとしているところだった。 剽軽(ひょうきん) で、無遠慮で通っていた棕隠は、平気で座に上って往った。
 折角の客なので、主人は棕隠にも膳を出した。棕隠はじろりと横目で自分の膳と山陽のとを見比べていたが、 つい大変なことを見つけ出した。それは焼肴が山陽の方は大きくて、自分のは小さいという事であった。


copyrighit (c) 2011 岩波文庫を1ページ読書