エントリーNO.340
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弁論家について

解説文(「岩波文庫解説総目録」或いは、表紙より引用)

ローマ最高の弁論家キケロー(前106-前43)が、既存の弁論術を批判・検討し、 実践弁論の復権、哲学と弁論の再結合を説く。
人間的教養(フーマーニタース) >の勧めである本書は、 ヨーロッパ的精神の一大指導理念たる<ヒューマニズム>の形成にも大きな影響を与えた。 自らの理念に忠実に生き、それに殉じた一つの偉大な精神の金字塔。(全2冊)

発行
岩波文庫 2005年5月17日 第1刷
著者名
キケロー   
タイトル
弁論家について (べんろんかについて) 全2冊  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

1 弟のクイントゥス、昔の記憶をしばしば (よみがえ) らせ、あれこれ思いを巡らせるにつけ、 わが国家が繁栄のきわみを迎える中、自らは名誉ある公職につき、 しかも () えある功績をあげて華々しく活躍しながら、 公務にあっては危険につきまとわれることもなく、 私の閑暇にあっては威厳を失うこともない、そのような人生の道程を 辿(たど) ることのできた昔の人々はつくづく幸福であったとわたしには思われる。 とはいえ、そのわたしもまた、やがて公職の道を辿り終え、公の場での弁論の労苦や選挙運動の仕事も無用のこととなり、 それとともに人生の転機を迎えたとき、[同じように]静かに憩い、わたしたち二人の愛してやまない輝かしい学問に心を向ける生活を始めることがわたしにも正当なことであり、 当然のこととしてほとんどすべての人がそれを許してくれるであろうと思ったこともあった。


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