エントリーNO.338
岩波文庫を1ページ読書
小説神髄

解説文(「岩波文庫解説総目録」或いは、表紙より引用)

「小説の主脳は人情なり、世態風俗これに次ぐ」小説を書くために、 まず小説とは何かを知らなければならなかった時代。 江戸戯作に親しみ西洋文学を渉猟した若き文学士逍遥(1859-1935)が明治の世に問うた、 日本近代文学史の黎明に名を刻む最初の体系的文学論。 他に、初期評論5篇を収録。(注・解説=宗像和重)

発行
岩波文庫 2010年6月16日 改版第1刷
著者名
坪内 逍遥 (つぼうち しょうよう)  
タイトル
小説神髄 (しょうせつしんずい)  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

    小説神髄  上巻
  小説総論
 小説の美術たる (よし) (あき) らめまくせば、 まづ美術の何たるをば知らざる (べか) らず。 さはあれ美術の何たるを明らめまくほりせば、世の 謬説(びゅうせつ) を排斥して、 美術の本義をさだむるをば、まづ第一に必要なりとす。 美術に関する議論のごときは古今にさまざまありといへども、総じて未定未完にして、 本義と見るべきものは () れなり。 近きころ (なにがし) 氏といふ米国の 博識(ものしり) がわが東京の府下に (おい) てしばしば美術の理を講じて世の謬説を (はく) されたれば、 今またここに事あたらしう同じようなることを述べて 看官(みるひと) の目をわづらはすはいと心なき (わざ) に似たれば、 ただ某がいはれたりし美術の本義を抄出して、そのあたれるや (いな) やを論じて、 おのれが意見をも (のべ) まく思へり。 某のいはるるよう、「世界ノ開花ハ人力ノ 効績(こうせき) (ほか) ナラズ。 (しこう) シテ人力ノ効績ニ二種アリ。


copyrighit (c) 2011 岩波文庫を1ページ読書