エントリーNO.332
岩波文庫を1ページ読書
ゴリオ爺さん

解説文(「岩波文庫解説総目録」或いは、表紙より引用)

夢をいだいて王政復古時代のパリに出てきたラスティニャックは、 ヴォケェ館に下宿しながら、社交界に出入りし、立身出世をはかる。 ラスティニャックを悪と犯罪の道へ誘惑するヴォートラン、 二人の娘を上流階級に嫁がせながらつましい生活をおくるゴリオなど、ヴォケェ館の個性あふれる魅力的な人々が巧みに描きだされる。(全2冊)

発行
岩波文庫 1997年9月16日 第1刷
著者名
バルザック  
タイトル
ゴリオ爺さん (ゴリオじいさん) 全2冊  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

    1 下宿屋
 ヴォケェ夫人は結婚前の旧姓をド・コンフランといった老女で、四十年来パリで下宿屋を開いている。 下宿屋のある場所は、ラテン地区とサン=マルソー地区のあいだのヌーヴ=サント=ジュヌヴィエーヴ通りである。 ヴォケェ館という名前で知られているこの下宿屋には、 老若男女(ろうにゃくなんにょ) の別なくだれでも寄宿できるが、 それでいてそこの風儀にとかくの (うわさ) がたったことは一度もない。 もっともここ三十年このかた、若い娘の姿などついぞこの下宿屋で見かけたことはなかったし、 若い男でそこに住んでいるものがあるとすれば、親もとからの仕送りがずいぶん少ないものと思っていい。 とはいえ、このドラマがはじまる一八一九年には、そこにひとりの貧しい娘が住んでいた。 ドラマという言葉は、近頃はやりの悲壮文学でやたらと用いられ、しかもその用いかたがまちがった乱暴なものであったところからすっかり信用をおとしてしまったが、 ここではこの言葉を用いることがやはり必要である。


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