エントリーNO.328
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アルハンブラ物語

解説文(「岩波文庫解説総目録」或いは、表紙より引用)

グラナダの丘に今もその姿を残すアルハンブラ宮殿。 アーヴィング(1783-1859)はアメリカ公使館書記官としてスペインに赴き、 偶然の幸運からモーロ人の築いた城に滞在した。 その幻想的な日々が、処々に伝わるさまざまな物語を織りまぜて、 詩情ゆたかに綴られる。(全2冊)

発行
岩波文庫 1997年2月17日 第1刷
著者名
アーヴィング   
タイトル
アルハンブラ物語 (アルハンブラものがたり) 全2冊  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

    1  旅
 一八二九年の春のことである。好奇心に誘われ、スペインに滞在していた筆者は、 在マドリード、ロシア公使館に勤務する友人と二人で、セビーリャから一路グラナダを目指す、念願のスペイン探訪の旅に出た。 地球上、遠くかけ離れた土地からやってきた者同士が、たまたまマドリードで出合い、 たちまち意気投合して、あのロマンスの地として名高いアンダルシアの山岳地帯を、こころゆくまでさまよってみようということになったのだった。
 彼は、現在、どこの任地にいるだろうか。宮仕えの身となれば、命によってどの地へでも赴かねばならないが、 華やかな宮廷社会に立ち交じっていようと、虚飾のない自然の風光の中で独り物思いにふけっていようと、この本が、運よく彼の眼に止まり、 わたしたちが二人して企てた無謀ともいえる旅の幾場面を、旅の相棒の名とともに、 なつかしく思い起こすよすがになってくれたら、と願うのである。 彼の温厚で、真に友達甲斐のある品性は、どんなに時と場所を隔てようと、わたしの脳裏から決して消え去ることはないだろう。


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