エントリーNO.316
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鳥の物語

解説文(「岩波文庫解説総目録」或いは、表紙より引用)

雁、鳩、鶴、ひばり、・・・・十二羽の鳥たちが王の御前に出ては語りだすとっておきの物語。 中国・日本の説話や聖書などから題材を得て書きつがれたこの大人のための童話集は、 いずれも天衣無縫、珠のように美しく磨きぬかれた作品であり、味わい深い哀愁と高い品格がただよう。 作者(1885-1965)自身がもっとも愛した短篇集。(解説=河盛好蔵)

発行
岩波文庫 1984年5月16日 第4刷
著者名
中 勘助 (なか かんすけ)  
タイトル
鳥の物語 (とりのものがたり)  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

   (かり) の話
 そのつぎは (かり) の番だった。 彼の姿は (つる) (くぐい) のそれにはとてもおよばなかったし、 その茶がかった羽色も雪のように白いのにくらべてはずっと見劣りがしたけれども、 彼は彼でやっぱり自分の属する種族の (ほこ) りをもって胸をふくらませていた。 彼は (とう) ややまとの貴い詩人たちが多くのすぐれた歌を彼らに贈り、 翠帳紅閨(すいちょうこうけい) 佳人(かじん) も彼らの声をきいては (あたたか) い涙の玉を惜しまないことを思った。 彼はまた鶴や鵠の話の晴れがましさを認めないわけにはゆかなかったが、 しかし----と彼はわれとわが胸のうちでいった。----私のはそんな童話みたいなものじゃない。 そこで彼は (うやうや) しく一礼したのち クワッ とひとつ 勿体(もったい) ぶった (せき) ばらいをして (おもむ) ろに語りはじめた。
 「これは今から千五百年ばかり昔、 唐土(とうど) では (かん) という国が栄えておりましたときのことであります」
 彼らの祖先のうちの一群は季節にしたがって 北海(ほつかい) 長安(ちょうあん) 、 それよりももっと南の地方とのあいだを往来していた。 ある年の秋北海の岸べを遠くはなれたところに立ち遅れた数百羽の一群が浮かんでいた。


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