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エントリーNO.34
岩波文庫を1ページ読書

           解説文(「岩波文庫解説総目録」より引用)
技量はありながらも小才の利かぬ性格ゆえに、 「のっそり」とあだ名で呼ばれる大工十兵衛。 その十兵衛が、義理も人情も捨てて、谷中感応寺の五重塔建立に一身を捧げる。 エゴイズムや作為を超えた魔性のものに憑かれ、 翻弄される職人の姿を、求心的な文体で浮き彫りにする文豪露伴の傑作。  解説=桶谷秀昭

発行
 岩波文庫 2008年7月4日 第111刷
著者名
 幸田 露伴 (こうだ ろはん)
タイトル
 五重塔 (ごじゅうのとう)
                    上記著作より、本文書き出し1ページを引用

  木理(もくめ) (うるわ) しき 槻胴(けやきどう) 、 縁にはわざと 赤樫(あかがし) を用ひたる 岩畳作(がんじょうづく) りの 長火鉢(ながひばち) (むか) ひて話し (がたき) もなく (ただ) 一人、 少しは (さび) しさうに (すわ) り居る三十前後の女、 男のやうに立派な (まゆ) 何日掃(いつはらい) ひしか () ったる (あと) の青々と、 見る眼も覚むべき雨後の山の色をとどめて (みどり) の匂ひ一トしほ (ゆか) しく、 鼻筋つんと通り 眼尻(めじり) キリリと上り、 洗ひ髪をぐるぐると (むご) く丸めて 引裂紙(ひつさきがみ) をあしらひに 一本簪(いっぽんざし) でぐいと (とどめ) めを刺した 色気無(いろけなし) (さま) はつくれど、 憎いほど 烏黒(まつくろ) にて (つや) ある髪の毛の一ト 綜二綜後(ふさふたふさおく) れ乱れて、 浅黒いながら 渋気(しぶけ) の抜けたる顔にかかれる趣は、 年増(としま) (ぎら) ひでも () めずには置かれまじき 風体(ふうてい) 、 我がものならば着せてやりたい好みのあるにと 好色漢(しれもの) が随分頼まれもせぬ 詮議(せんぎ) を蔭ではすべきに、 さりとは 外見(みえ) を捨てて 堅義(かたぎ) を自慢にした身の (つく) (かた) (がら) 選択(えらみ) こそ 野暮(やぼ) ならぬ (たか) 二子(ふたこ) の綿入れに 繻子襟(しゆすえり) かけたを着て 何処(どこ)

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