表紙一覧3へ        次のエントリーへ

エントリーNO.26
岩波文庫を1ページ読書

           解説文(「岩波文庫解説総目録」より引用)
「伊豆の踊り子」で美に対する清新な感覚を表現した川端は、 この「雪国」にいたって、人の世の哀しさと美しさの極地を描きだした。 無為の孤独を非情に守りつづける主人公島村は、 雪深い温泉場を訪れ、そこで出会った芸者駒子の汚れない女心に次第に心惹かれてゆく・・・。 日本の小説中屈指の名作に数えられる川端の代表作。

発行
 岩波文庫 2008年10月6日 第8刷
著者名
 川端 康成 (かわばた やすなり)
タイトル
 雪国 (ゆきぐに)
                    上記著作より、本文書き出し1ページを引用

 国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった。
  向側(むこうがわ) の座席から娘が立って来て、 島村(しまむら) の前のガラス窓を落とした。雪の冷気が流れこんだ。 娘は窓いっぱいに乗り出して、遠くへ叫ぶように、
 「駅長さあん、駅長さあん。」
 明りをさげてゆっくり雪を踏んできた男は、 襟巻(えりまき) で鼻の上まで包み、 耳に帽子の毛皮を垂れていた。
 もうそんな寒さかと島村は外を (なが) めると、 鉄道の官舎らしいバラックが 山裾(やますそ) に寒々と散らばっているだけで、 雪の色はそこまで行かぬうちに (やみ) に呑まれていた。
 「駅長さん、私です、 御機嫌(ごきげん) よろしゅうございます。」
 「ああ、 葉子(ようこ) さんじゃないか。お帰りかい。また寒くなったよ。」
 「弟が今度こちらに勤めさせていただいておりますのですってね。お世話さまですわ。」

表紙一覧3へ        次のエントリーへ


copyrighit (c) 2011 岩波文庫を1ページ読書