表紙一覧3へ        次のエントリーへ

エントリーNO.21
岩波文庫を1ページ読書

           解説文(「岩波文庫解説総目録」より引用)
「恥の多い生涯を送って来ました。 自分には、人間の生活というものが、見当つかないのです」 -----世の中の営みの不可解さに絶えず戸惑いと恐怖を抱き、 生きる能力を喪失した主人公の告白する生涯。 太宰が最後の力をふりしぼった長編「人間失格」に、 絶筆「グッド・バイ」、晩年の評論「如是我聞」を併せ収める。 
            解説=三好行雄

発行
 岩波文庫 2008年4月4日 第34刷
著者名
 太宰 治 (だざい おさむ)
タイトル
  人間失格(にんげんしっかく)  グッド・バイ 他一篇
                    上記著作より、本文書き出し1ページを引用

             はしがき
 私は、その男の写真を三葉、見たことがある。
 一葉は、その男の、幼年時代、とでも言うべきであろうか、十歳前後かと推定される頃の写真であって、 その子供が大勢の女のひとに取りかこまれ、(それは、その子供の姉たち、妹たち、それから、 従姉妹(いとこ) たちかと想像される)庭園の池のほとりに、 荒い (しま) (はかま) をはいて立ち、 首を三十度ほど左に傾け、醜く笑っている写真である。醜く?   けれども、鈍い人たち(つまり、美醜などに関心を持たぬ人たち)は、面白くも何ともないような顔をして、
 「 可愛(かわい) い坊ちゃんですね。」
 といい 加減(かげん) なお 世辞(せじ) を言っても、 まんざら (から) お世辞に聞こえないくらいの、 いわば通俗の「可愛らしさ」みたいな影もその子供の笑顔にないわけではないのだが、しかし、 いささかでも、美醜についての訓練を () て来たひとなら、ひとめ見てすぐ、
 「なんて、いやな子供だ。」
 と (すこぶる) る不快そうに (つぶや) き、毛虫でも払いのける時のような手つきで、 その写真をほうり投げるかも知れない。


表紙一覧3へ        次のエントリーへ


copyrighit (c) 2011 岩波文庫を1ページ読書