エントリーNO.297
岩波文庫を1ページ読書
お菓子とビール

解説文(「岩波文庫解説総目録」より引用)

亡くなった文豪の伝記執筆を託された友人から、 文豪の無名時代の情報提供を依頼された語り手の頭に蘇る、 文豪と、そしてその最初の妻と過ごした日々の楽しい思い出----。 『人間の絆』『月と六ペンス』と並ぶモーム(1874-1965)円熟期の代表作。 一九三〇年刊。

発行
岩波文庫 2011年7月15日 第1刷
著者名
モーム  
タイトル
お菓子とビール (おかしとビール)  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

    お菓子とビール
   1
 留守をしているときに電話があり、ご帰宅後すぐお電話ください、大事な要件なのでという伝言があった場合、 大事なのは先方のことで、こちらにとってではないことが多い。 贈物をするとか、親切な行動をしようという場合だと、人はあまり焦らないものらしい。 この事実に前から気付いていたから、その日下宿に戻ったとき、下宿のおかみのミス・フェロウズからアルロイ・キア様からのお電話で、 すぐ電話してくださいとのことでしたと聞いても、僕は平然としていた。 夜のパーティーに向かう前に一杯呑み、一服し、服を着替えるだけの時間しかなかったのだ。
 「作家の方でしょう?」おかみが聞いた。
 「そうですよ」
 おかみは電話を親しそうに見た。
 「私がかけましょうか?」
 「いや、結構」


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