エントリーNO.281
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マノン・レスコー

解説文(「岩波文庫解説総目録」より引用)

シュヴァリエ・デ・グリューがようやく17歳になった時、マノンという美しい少女に会う。 「彼が犯した幾多の怖ろしい行為はただこの恋人の愛を捉えていたいがために他ならなかった。 マノンがカナダに追放される日、彼もまたその後を追う。 プレヴォ(1697-1763)の代表作で18世紀を代表する恋愛小説。

発行
岩波文庫 1984年5月20日 第54刷
著者名
アベ・プレヴォ  
タイトル
マノン・レスコー  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

    第一部
 私が初めてシュヴァリエ・デ・グリューに 出遇(で あ) った私の生涯のその時代にまで、 私は読者を (さかのぼ) らせなければならぬ。 それはスペインへ出発するおよそ六ヵ月前であった。 隠栖(いんせい) の生活から足を踏み出すのは私には (まれ) なことではあったが、 娘を満足させるために私は時々はさまざまの小旅行をこころみた。 それもできるだけ短くきりつめはしたが。 娘のために私の母方の祖父からその権利をもらっておいてやった或る土地の相続に関する要件で、或る日、彼女の依頼によってルアンのノルマンジー高等法院へ出かけての帰りであった。 道を再びエヴルーに取って、最初の夜はそこで泊り、翌日は五六里離れたパシーに昼食するために立ちよった。 この町にはいって驚いたのは、町中の人たちのわいわい騒いでいるのを見たことであった。 彼等は家を飛び出して、群りながら、とある下等な 旅籠屋(はたごや) の門口に押し寄せている。 そこには二台の 幌馬車(ほろばしゃ) があった。 まだ (つな) がれたままの馬は疲労と暑さに激しい息づかいをして、 これらの馬車が着いたばかりであることを示していた。 この騒ぎの訳を知るためにちょっと私は足を停めたのであったが、物見高い賤民たちからはなんの説明も得られなかった。 彼等は私の問にふり向きもせず、大変な混雑のうちに互いに押し合いながら、どんどん旅籠屋の方へと進んで行った。 やっと、負革を着けて、火縄銃を肩にした一人の 邏卒(らそつ) (かど) ぐちに姿を見せたので、 私は傍へ来るように手で合図をした。そしてこの混乱の理由を教えてくれるように頼んだ。
 「なあに、 貴方(あなた) 、と彼は言った。 ----わたしは仲間といっしょに、一ダースばかりの白首どもを、アーヴル・ド・グラースまでひっぱって行って、 そこから奴らをアメリカへ積み込むのです。 中には二三人可愛いのがいるものですから、それが土百姓どもを騒がせているにちがいありません。」


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