エントリーNO.279
岩波文庫を1ページ読書
白衣の女

解説文(「岩波文庫解説総目録」より引用)

夏の夜道、「ロンドンに行きたい」と声をかけてきた白ずくめの女。 絵画教師ハートライトは奇妙な予感に震えた----。 発表後一大ブームを巻き起こし、豊饒な英国ミステリの伝統の第一歩を記したこの作品により、 コリンズ(1824-89)の名は不朽のものとなった。

発行
岩波文庫 1996年3月18日 第1刷
著者名
ウィルキー・コリンズ  
タイトル
白衣の女 (はくいのおんな) 全3冊  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

    第一部
  クレメンツ・インに住む絵画教師、ウォルター・ハートライトの話
 1
 七月も最後の日のことであった。長い暑い夏も間もなく終わろうとしていた。 ロンドンの街路を疲れ去った巡礼のように歩いている人々も、 ようやく小麦畑の上の雲の影や、海岸に吹く秋風の気配に思いを () せ始める頃であった。
 私自身のことをいえば、惨めなことに、夏が終わりに近づくにつれて、健康状態は思わしくなくなり、気力も消沈気味であった。 さらに率直に打ち明けてしまうと、金のほうも同様に消え失せていった。というのが本当のところであった。 思うに前年は、自分の仕事で稼いだ金を、いつもの年ほど慎重に使わなかったのだろう。要するに浪費の付けが回ってきて、 その年の秋はハムステッドにある母の家と、ロンドンに借りてある部屋とで半々に暮らさねば、 経済的にやっていけそうもないところまで追いつめられていたわけである。


copyrighit (c) 2011 岩波文庫を1ページ読書