エントリーNO.263
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ゴプセック・毬打つ猫の店

解説文(「岩波文庫解説総目録」より引用)

巨万の富を握り、社会を裏で牛耳る 高利貸(ゴプセック) 、 その目に映った貴族社会の頽廃。天使のような美貌で、天才画家に見初められた商人の娘の苦悩。 私生活に隠された秘密、金銭がつなぐ物語の構造。 斬新な視点が作家バルザックの地位を築いた『私生活情景』の二作。

発行
岩波文庫 2009年2月17日 第1刷
著者名
バルザック  
タイトル
ゴプセック・毬打つ猫の店 (まりうつねこのみせ)  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

    ゴプセック
 一八二九年から一八三〇年にかけての冬のことだった。午前一時になっても、グランリュウ子爵夫人のサロンには、 家族ではない人物がまだふたり残っていた。 掛け時計が時を告げるのを聞くと、ひとりの若い美青年が帰っていった。 その馬車の音が中庭に響いた。 すると子爵夫人は、ピケ[同じ柄。同じ数の札を多くそろえるトランプ遊び]を終えようとしていた彼女の兄と一家の親しい友人の姿しかないことを見て、 娘の方に歩み寄った。 娘は、サロンの暖炉の前にたたずみ、ランプの笠の透かし模様をじっくり眺めているようだったが、カブリオレ馬車[一頭立二輪の幌付]の響きに聴き入っていて、 その様子からして、母親の心配はむりからぬものだった。
 「カミーユ、あなたが今夜のような振舞い方をレストー伯爵のご令息にこれからもつづけるなる、もうおいでいただかないようにしなくてはなりませんね。 よくお聞きなさい、わたしの愛情が分かっているのなら、あなたの人生の道案内はお母さまにまかせるのですよ。 十七歳では、将来のことも過去のことも、社会的に熟慮しなければならないことも判断できないでしょうから。 ひとつだけあなたに教えておきますから。 レストーさんのお母さまは巨万の富を使い果たすような人で、生まれも卑しく、ゴリオとかいう家の娘だったの。


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