エントリーNO.261
岩波文庫を1ページ読書
果てしなき旅

解説文(「岩波文庫解説総目録」より引用)

自由あふれるケンブリッジに入学したリッキーは、 これまでにない幸福な生活を送っていたが、アグネスとの結婚によって精神的な危機に陥っていく。 ・・・イギリス写実主義小説の伝統の完成者といわれるE・M・フォースター(1879-1970)の自伝色の濃い長篇小説。

発行
岩波文庫 1995年2月16日 第1刷
著者名
E.M.フォースター  
タイトル
果てしなき旅 (はてしなきたび) 全2冊  
 
上記著作より、本文書き出し1ページを引用

    第一部 ケンブリッジ
  第一章
 「その牛はそこに存在する。」マッチに火をつけ、カーペットの上に差しだしながらアンセルが言った。 誰も口を開かない。彼はそのまま、マッチが落ちるのを待ってから、ふたたび言った、「そこに存在するのだ、その牛が。そこに、いま。」
 「まだ証明できてないじゃないか」と別の声。
 「自分に対してはもう証明したのさ。」
 「ぼくは牛はいないと自分に証明したぞ」とその声。「その牛はそこに存在してはいない。」 アンセルは顔を (しか) めて、もう一本マッチを () った。
 「ぼくにとって牛はそこに存在するのだ」彼は言い放った。「君にとって存在しようがしまいが構わない。 ぼくがケンブリッジにいても、アイスランドにいても、あるいは死んでいようと、 その牛はまちがいなくそこに存在する。」


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